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日本政策投資銀行のおかしな迷走

「日本のゴールドマンサックスを目指す」と大見得を切って株式会社化した政策投資銀行が、前原タスクフォースが債務超過と言っているJALに追加融資を行っているのはダブルスタンダードの典型ではないでしょうか。株式会社になったとは言え、政府系金融機関として政策融資の出し手のはずの政策投資銀行に、今いったい何が起きているのでしょうか。

JAL融資の政府保証だけが10%手厚い理由

日本航空再建のつなぎ融資の出し手として注目されているのが日本政策投資銀行です。特殊法人だった日本開発銀行、北東公庫という2つの政府系金融機関が小泉改革で整理統合されてできあがった銀行で、統合の後に株式会社化されましたが、株式はすべて政府が保有しています。
果してこの銀行は、国民や政府から期待されている政策金融機関としての役割をきちんと果たしているのかどうか、極めて疑問に思います。
それどころか、政策投資銀行は安易な民営化賛美論に起因する株式会社化に始まり、そしてリーマンショック後の金融危機で国の株式売却の延期の紆余曲折を経て、起こった混迷の中で、本来の役割を忘れて迷走し始めているように思えてなりません。

JAL融資の政府保証だけが10%手厚い理由日本航空はすでに09年6月、政府保証をつけた1000億円の緊急融資を受け、更につなぎ融資として政策投資銀行中心に2000億円規模の融資を受けようとしています。
ところで、政策投資銀行から日本航空への融資(政府全額出資の日本政策金融公庫から信用補完)については80%が政府保証を受けているのですが、麻生内閣の緊急経済対策で決まった一般企業に対する融資での政府保証は70%しか付いていません。各県の信用保証協会の政府保証も70%です。なぜ一民間企業である日本航空に対する融資だけ、保証割合が10%多いのでしょうか。

だいたい日本航空が国益上、放置することはできない航空産業を担う重要企業とは言え、本来的には一民間企業でしかありません。また、日本郵政とも大きく違い、政府100%出資会社でもありません。なのに、日本航空のみに法に則ってなされた政策よりも10%多い政府保証をつけること自体が異例です。法的な根拠はどこにあるのか聞きたいものです。以下のような想像が意外と当たっているかもしれません。日本航空の経営が苦しいことが分かっている国土交通省は財務省に相談したのではないでしょうか。そして、「政策投資銀行からの政府保証付き融資にしよう」ということになった。つまり、政策投資銀行から「リスクが高い」と渋られたので、「それなら政府保証を80%に上げましょう」というふうな形で決着がついたということです。まずは、日本航空を潰さないために融資ありきなのです。

政策投資銀行には国土交通省の天下り先としての役員枠があります。また、財務省からは役員が2名入っております。お一人は副社長です。こんなことでは政策投資銀行は役所のご用聞きにすぎません。民営化の論理と整合性がとれていません。

国土基盤の整備資金や産業基盤の整備資金の出し手」が投資銀行に変身

私の意識としては、お金が入ってきたとしても、そのお金は自分のものではないのです。
政策投資銀行は、本来、政府系金融機関として政策融資を行う機能を果たすべき銀行のはずでした。
日本開発銀行時代は、財投資金を元手にして、日本全国に長期的な国土や産業の整備のための資金を貸し出してきました。原子力を含む発電所や化学コンビナード、製鉄所、半導体工場、自動車工場など民間銀行が融資しにくい産業基盤整備案件が、開発銀行の低利融資の領分だったのです。国土開発・地域開発面ではいろいろな分野でのディベロッパーや百貨店やスーパー、鉄道会社や船会社、そしてJALやJASやANAも航空機購入資金の融資を受けていました。ANAやJALのような大企業でもお金が足りなくなるとこれまでいつも開発銀行に飛び込んでいました。ANAやJALの監査役は開発銀行(政策投資銀行)出身者が務めています。
また開発銀行は、われわれのような地方企業に対しては、地域開発部門を通して、バス事業、ホテル事業、流通事業、観光開発事業などに長期資金の融資を行っていたのです。日本中の地方の基盤整備は、開発銀行の融資から始まったのです。

国土基盤の整備資金や産業基盤の整備資金の出し手」が投資銀行に変身ところが小泉改革時代に、「財政投融資は役人のお手盛りでむだ遣いが多く、悪の根源である。財政投融資から金が出ているものはすべて問題があるからやめてしまえ!」というヒステリックな声に従って、開発銀行は改組され民営化されることになりました。
「役所がみんな系列の政府系金融機関を持ち勝手に融資しているのは天下りの温床だから統合しよう」という声も背景にありました。そうした情緒的な世論に押されて、政府系金融機関がそれまで行ってきた政策融資にどのような意味があったのかという問題議論も全くなく民営化が行われてしまったのです。
確かに、全ての省庁が自分たちの関係者にお手盛りの資金供給する政府系金融機関と称する貯金箱を持っていました。そして、その実態は天下りと身内意識の閉鎖社会の中で目を覆いたくなるような無駄や乱脈融資が行われていました。しかし、少なくても開発銀行と商工中金はそうでなかったと考えます。しかし、前述のムードの中で、 十把一絡げですべての政府系金融機関が整理・統合・民営化されることが決定されました。
こうして資本金1兆円。投融資を一体で行い、「日本のゴールドマンサックスを目指す」という触れ込みで日本政策投資銀行がスタートしたのです。社長も民間人を迎えました。財務省としては「銀行として収益を上げてもらい上場益を狙いたい」という思惑があったのでしょう。
とはいえ実際は、投資に関しての実績はサブプライムローンに手を出し300億円の損失を出したり、安易なファンド投資で失敗をしたりして散々な結果になっているようですが。


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