岩崎芳太郎の「反・中央集権」思想

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失敗の見えていた「郵政改革」を推進した力学とは

その1 政治家、官僚、マスコミは「東京三区至上主義」

     ジャーナリスト 町田 徹氏 

害毒しかまき散らしていない郵政民営化の土壌


岩崎 私は、日本の「中央集権」のある種の制度疲労の一番の被害者が地方だということをテーマにして本を書いたのですが、中央マスコミの記者の人と話をしていると、「官僚制がよくない」ということには同意していただけるのですが、「中央集権が問題だ」ということにはあまりピンと来ないようなんです(笑)。
 私は地方の目から見て、中央集権と官僚制の2つの問題があると考えていますが、どちらかというと中央集権のほうが大きな問題だと思っているんです。町田さんはどう思われますか?


害毒しかまき散らしていない郵政民営化の土壌町田 まったくその通りですね。結局、東京中心主義ですよね。それも千代田、中央、港の三区くらいのことしか考えずに政治家や官僚、マスコミは生きているのではないかと思ってしまいます。「東京三区至上主義」とでもいいますか。
 私は新聞記者になってから、東京とアメリカしか経験していません。例えばインターネットが出てきたころに、アメリカからの新しい動きを一生懸命日本に伝えようとしても、日本では全然興味を持ってもらえなかったんです。地方のことがわからないだけではなくて、インターナショナルということにも興味がないのが日本の中央集権の仕組みだと思います。


岩崎 その日本の中央集権制は、百年以上続いてきて、戦争などの大きな変化のたびに、どちらかといえば強化されてきています。どこから切り込んでいけば、町田さんがおっしゃる「東京三区至上主義」を変えることができると思われますか?


町田 例えば財務省に入ると、退官しても財務省所管の関係法人に天下りますから、「財務省という組織の幸せを追求することが自分の幸せにつながる」ような仕組みになっています。「財務省さえよいのであれば、海外から見たりとか、地方の視点で考えたりとか、日本全体の国益など考える必要はない」という仕組みなんです。
 ですからまず、省益を追求することが自分の利益になるという人事システムをどんどん変える必要があると思います。民間企業が役所から人を引き抜いても良いし、民間企業の人が役所に入って活躍してもいいですよね。アメリカではそのような官民の人事が交流する仕組みになっています。そうしないと、内部しか見ない人たちの目を外に向けることはできません。だから発想も変わらないんです。
 郵政民営化をめぐるさまざまな問題は、その仕組みの上で起こっています。このような内部の利益を優先する仕組みの上で個別の人たちが自分の利益のために働いて、結果的には害毒しかまき散らしていない民営化になってしまっています。

郵便事業の功労者、前島密と田中角栄

岩崎 つまり郵政改革は、中央集権を改めるために始めた改革なわけですが、結果として見れば国民全体にとってよくなるはずだったことが、ほとんどの国民にとっては最悪の結果になり、一部の人たちだけが利益を得たということになってしまっていると思うんです。  これは一体どうして起こってしまったことなのでしょうか?


町田 お答えする前に、少し歴史を振り返ってみましょう。
 郵政事業は明治政府が創設しました。お金はないけれど近代国家を目指している日本としては、政府のお金ですべてをやるのではなくて、地方の名士の人に私財を提供してもらって特定郵便局を整備したり、岩崎さんのところに輸送を手伝ってもらうようにして、ある意味「名誉職として国益のために頼むよ」と地方の力を借りて郵便事業を整備しました。あの前島密のやり方はカネのない国家の工夫として正しかったと思います。
 それから田中角栄も評価すべき人です。当時の特定郵便局は占領軍総司令部(GHQ)によって戦争遂行団体に指定され、法的な存在根拠を失い、特定郵便局長たちは過激だった組合の格好の攻撃目標にされていた。そこで、田中角栄は特定郵便局の法的な存立基盤を復活し、局長たちが身分保障を受けられる国家公務員にした。この判断は、かけがいのない国民の通信手段である郵便事業を始めとした郵政3事業を維持していくために、間違っていないと思います。
 しかし特定郵便局は、地方の名士たちに多くを依存するフランチャイズ体制のままで放置されてきました。ある時点で、国が特定郵便局を謝礼を払って買い取り、国の直轄事業にするといったことがあってもよかったのではないかと私は思います。さもなければ,多くの特定郵便局は、地方の名士が私有地に私財で立てた郵便局ですから、後任を、その創設者の子弟の世襲で決めるというパターンの常態化を容認せざるを得なかったからです。どんな理由があるにせよ、「公務員の世襲」というシステムを世論に受け入れて貰うのは難しい。そういうことに配慮した改革を怠ったことは不幸でした。しかも、特定郵便局長会は田中角栄への恩義から、田中派の集票団体に変質していきました。これが、他の政治家から恨みを買うことになるわけです。


岩崎 そうですね。


町田 徹(まちだ てつ)氏 http://www.tetsu-machida.com/
経済ジャーナリスト、ノンフィクション作家。 1960年大阪府生まれ。
神戸商科大学(現兵庫県立大学)卒。米ペンシルバニア大学ウォートンスクールに留学。
甲南大学経済学部非常勤講師。
日本経済新聞社における18年間の新聞記者時代に、金融制度改革、郵貯肥大化問題、放送デジタル化、通信回線の接続ルール作り、NTT分離・分割問題、米1996年通信法改正、日米通信摩擦、米金融政策、米インターネット振興策などを取材し、多くのスクープ記事をものにする。  雑誌編集者を経て独立し、雑誌への寄稿や講演活動も手掛けている。



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