岩崎芳太郎の「反・中央集権」思想

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郵政民営化の欺瞞

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小泉竹中改革とは東京による地方収奪でしかなかった

「役人の方が政治家や民間人より公益を考えているはずだ」という思い込みはおおまちがい。「公」を振りかざす人間ほど怪しい。むしろ民間による「私利追求」のほうが公益実現に近い。

「効率化のための郵政民営化」を錦の御旗に独占利得を得るファミリー企業

中央の官僚や経団連の民僚たちは、「公益を考えるとこちらの方が正しい」と、「公」を振りかざして、「財政収支を均衡し、金融システムを安定化させ、社会の効率化を図る、これすなわち構造改革である」と言いながら、このような改革を推進していますが、しかし10年経って結果を見ると、現実的には構造改革は一部の人間の私利を満たす話にすり替えられてしまったのではないでしょうか。
そして実際に効率化されたかというと、効率はちっとも上がっていません。逆に、この国の社会システムは破綻してしまいました。

私も関わっている一例を挙げましょう。
民営化された郵政事業4会社のひとつとして、郵便事業(株)という物流会社があります。ここが、郵便の輸送事業を行っている日本郵便逓送(株)、関東郵便逓送(株)、日本高速物流(株)といったファミリー企業14社だけを子会社化して集約し、「日本郵便物輸送(株)」という子会社にまとめました。そこから郵便の収集・配達の輸送業務を残り約100社の下請けに出すよう一方的に契約の変更を迫ってきました。
当社は昭和3年から80年間にわたり郵便輸送事業を行っていますが、郵便事業は当社のような地方企業は排除して都市圏や幹線といったマーケットの厚いところで独占的に事業を行っているファミリー企業だけをまとめて子会社にした後、その子会社を元請けとして随意契約を行ったのです。そして、その子会社で稼ぎ出す儲けは自分たちのものにして、利益の薄い地方は下請け化した地方の会社を叩いて利益を出そうとしているわけです。
そもそも、郵便業務の「再委託」は、郵便制度の本質を考えると郵便法などに違反しているとみなすべきで、日本郵便物輸送(株)を元請として、各地の関連会社に郵便物輸送を再委託するのは違法行為なのです。それを強引に迫ってきたので、当社としては契約を拒んだところ、一方的にこの80年続いた契約を、郵便事業(株)から打ち切られました。【この件についての詳細は別ページへ】

「効率化のための郵政民営化」を錦の御旗に独占利得を得るファミリー企業当社の郵政公社からの運送委託料については、平成15年から16年にかけて約35%の値下げを要求されました。日本郵便物輸送(株)は、下請けの請負料を叩くことで大きな利益が上がるはずなのに、法律で業績の開示が決められているのは郵便事業(株)だけです。つまり、この純民間会社である日本郵便物輸送(株)(郵政官僚の天下り先)のP/Lは外部には見えないということになってしまうのです。
本来的には、日本郵便物輸送(株)が上げた利益は、郵便の利用者に還元しなければならないはずですが、どの程度の利益が上がっているのか見えなくなっています。郵便の利用者にとっても不明朗な方法を郵便事業(株)は取っています。郵政民営化は、「民営化したほうが効率化できますよ」という目的にのっとってなされている改革のはずなのですが、果たして効率化とはいったい何なのでしょうか。更には、こんな一部の関係者の利得追求を放置していたら、郵便という国の制度としてのユニバーサルサービスやシビルミニマムという必須条件を喪失することになります。
効率を追求した結果、起こっていることがこれでは意味がないのではないでしょうか? むしろ民営化のプロセスを通して独占化を進めることによって非効率になるという真逆の結果になってしまっています。

公正な競争を行えば、私利が公益になる

例えば郵便事業(株)の改革を例にとれば、私からすれば、子会社をまとめて独占的な会社をつくるのではなくて、「各郵便輸送会社の経営者の徹底的な私利追求によって効率化を達成するほうが、目的達成がより図れるのではないか」と考えられるのです。
つまり、郵便輸送の受託業者を、入札によって選べばよいだけのことです。「私ならもっと安く郵便物を輸送しますよ」と輸送業者の経営者に手を挙げさせつつ、効率的な輸送を行う業者を入札によって選ぶという、正しい競争を行えばよいだけのことだと思うのです。
私利が公益になるときに一番重要なポイントは、公正な競争を行うことなのです。しかし現在の民営化の過程で行われている郵政ファミリー企業の整理を見ると、公正を振りかざしつつ,不公正を行っているとしか言いようがありません。効率追求と言いながら、競争を排除しているのです。
郵便事業(株)は郵便輸送を、日本郵便輸送(株)に独占的に元請けさせていますが、私に言わせれば「私もその受託業務の入札に参加させていただきたいものだ」と思うのです。

公正な競争を行えば、私利が公益になる私は鹿児島県内の郵便輸送をやっていましたが、もし入札になるのであれば大賛成でした。「日本郵便逓送がやっていた熊本と鹿児島とか、熊本と福岡の間の幹線輸送といったおいしい路線は、当社がすべて取ってしまう。九州全域の郵便輸送すら独占できるのではないかと」考えていたくらいですから。これは私が私利を追求しているだけのように見えるでしょうが、しかし公正な競争を行えば、それが効率化に一番つながるはずなのです。
しかし現状はどうなかったというと、わが社よりも効率の悪い会社が一社独占で全郵便輸送を元請し、これまでに百社以上あった輸送会社を孫請化してピンハネしようという話ですから、全く逆の話になってしまっています。
私は「そんなことはおかしい」と思ったので、孫請化の契約に反対したところ、一方的に郵便会社から80年間続いていた輸送契約を打ち切られました。こんなバカな話があるでしょうか。
しかし現実的には、こうした理不尽な話には際限がありません。
余談ですが、300億円以上の公金を使った郵便事業(株)のファミリー企業14社の子会社化のための株式買収について、とんでもない疑惑がある事も言及しておきます。

役人の「私利追求」は手が込んでいる。騙されてはならない

官僚や役人は、取引によって直接自分がお金をもらうわけではありません。だから「私利」から遠いところにいるように見えます。民間企業は、業務上の利益を追求していますから、ちょっと見は「公」の全体効率を考えているようには見えません。だから役人が効率や「公」を振りかざすと、そちらの方が正しいように見えてしまいます。
しかしそれはまちがいで、官僚は最終的な自分の利益を得るために、遠回りなステップを踏んでいるだけなのです。予算を取ってきたり、法律を作ったり、組織人員を増やしたり、天下り法人を増やすといった手順を積み重ね、役所を取り巻く大きな枠組みの中でうまく立ち回って、最終的には自分自身がなるべく多くのリターンを利得を得るようにするというのが、官僚のビヘイビアなわけです。
政治家の利益追求は、賄賂というわかりやすい形で事件になりますので、政治家がダーティーで、官僚は清廉というイメージがありますが、必ずしもそうでないと思います。

役人の「私利追求」は手が込んでいる。騙されてはならない自分がストレートに現ナマをもらうよりは、自分の組織がなるたけ肥大化し、役所に富を集中させるように貢献すれば、官僚組織にはしっかりした分配の論理が組み込まれていますから、自分がしかるべき出世の序列から外れさえしなければ、最終的には大きな得をすることになっています。つまるところ官僚が振りかざす「公」というのは、たいてい私利につながっていると考えたほうがよいのです。
日本人がすごく勘違いしている点だと思うのですが、「私利」というのは、個人の利得には限りません。役所は省益を追求して動く組織なのですから。その組織にとっては、「私利」なのです。
福沢諭吉は「私益はいづれ公益となる」という言葉を残したそうです。最近、公益法人法が改正されましたが、役所が考えている公益というのは、限定的な人たちの利益を守るためのものです。決してパブリックの利益を考えたものではありません。

たとえば業界団体は、改正公益法人法では、公益団体にならないのだそうです。なぜなら、「業界の人たちのための団体」だからです。そこでどうするか、例えばバス協会であれば、現在はバス事業者のための団体として公益法人になっていますが、今後はこれでは認められません。そこで「バス協会はバス利用者のための団体である」とすれば、公益法人として認められるのだそうです。
つまり、役所というのはそういう考え方をするところなのです。彼らはパブリックについて語りながら、「パブリックセクターのための私利を図っている」ということが、これからよくわかります。

パブリックセクターだからといって、「公益を図っている」というイメージを安易に持つのは、まちがっているのです。彼らはパブリックの看板を掲げながらあくまで私利を追求しています。それだけになおさらタチが悪い連中なのです。
業界というプライベートが「公益を損なわないで、個々の私利をどうやったら追求できるか、どうやって追求していくのか」を実践するために、業界団体は存在する。そういう考え方の方が、実存主義的かつ社会的に健全と言えるのではないでしょうか。

この国では天下りのためや予算取りのための公益法人ほど看板だけは立派ですが、真の公益に貢献していない事は周知の事実ではないでしょうか。



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