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郵政民営化の欺瞞

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日本全体を対象としたネットワーク事業は民営にそぐわない

郵政事業はそもそも民営化してはならない事業です。なぜなら、日本全体を対象としたネットワーク事業は、国家が行うべきバブリックサービスだからなのです。

日本全体を対象としたネットワーク事業は国が行うべき

郵政民営化については、私はそもそも反対でした。なぜならば、国家が行うべきバブリックサービスを、株式会社が行うべきではないからです。
「バブリックサービスを民間会社が行う」、ということはあってもよいのです。わが社のようなバス会社だってそうですから。ただし郵便事業は日本全体を対象としたネットワーク事業であり、こうした事業はほぼ世界中の国で公的セクターが行うべきであるとされているのが現実です。アメリカ合衆国でもそうです。実際に郵政民営化の結果として、郵便事業が地方ではうまく維持できなくなっていることからもそれがうかがえます。

少なくとも地方においては郵便事業を3つに分け、さらに郵便局まで4つ目の事業として分けてしまっては、そこまでのマンパワーはないし採算がとれないのは明らかです。事業インフラは共通にしておくほうが採算性がいいのは当然で、民営化のひとつの目的である効率化に逆行しているとしか思えません。
その意味ではやはり郵便事業は、「パブリックセクターが行うパブリックサービス」という枠組みを維持するべきだった、つまり民営化はまちがっていると私は思うのです。

日本全体を対象としたネットワーク事業は国が行うべき百歩譲って、バブリックサービスは必ずパブリックセクターで行わなければならないということではありません。私は頑に民営化に反対しているわけではないのです。しかしながら、「日本全域を対象としたバブリックサービス」が運営できるのは、やはりパブリックセクターのみだと思うのです。
そうでなければ、ユニバーサルサービス(全国どこでも均一に受けられるサービス)が維持できず、結果的にシビルミニマムが保てなくなるからです。例えば、日本郵政株式会社になってから、日本中のほとんどの郵便局がお正月3日間お休みでした。ただし、都市部の中央郵便局等は開いていました。鹿児島県では、鹿児島市の中央郵便局だけが開いていました。これなど、民営化でユニバーサルサービスが破綻するという危惧がいきなり現実となった典型的な例です。今は、東京の大郵便局は24時間営業となり、東京の人々は民営化の利益の受益者となりました。地方の特定郵便局は加速度的に廃止となり、地方の郡部に住む人々は郵便を出したり、ゆうちょ銀行でお金を入出金するのさえ、大変な時間と労力を使わなければならなくなりました。

ちょうど、国鉄民営化の時、どんどん地方線路が廃止される一方、東京など大都市でのみ新しい線路の充実が図られたり、種々のサービス向上が図られたりしたのと同様の図式です。

「最低限の基準」を明確に定めなければ事業が成り立たない

もし郵政事業のような日本全域を対象としたサービスを民営化するのであるならば、福祉と同じ感覚でやらなければならないシビルミニマム(最低限の生活保障)とユニバーサルサービス(全国どこでも均一に受けられるサービス)の基準を厳格に定めるべきだと思います。
なぜなら、ネットワークサービスには必ず「内部補助」が必要だからです。例えばバス事業の場合、地域ごとにバス事業の採算性は違いますから、儲かる地域と儲からない地域が出てきます。鹿児島県全域でバス事業で利益を上げることができるのは鹿児島市内だけです。鹿児島市で稼いだその利益を、儲からない路線に投入することを「内部補助」と言います。
鹿児島市以外の地域は「内部補助」で交通ネットワークを維持することになります。ということは、各地域の住民が、最低でどの程度の利便を享受できるようにするべきかというシビルミニマムとユニバーサルサービスの基準が明確でなければ、どこまで補助してよいのかもわからず事業の成り立たせようがないことになります。

電電公社の民営化の時にもこれが徹底されませんでした。
NTTは1985年にNTT法によって民営化されました。この当時のシビル・ミニマムは固定電話だったのです。従ってNTTの本社は固定電話網を整備する義務を負っていました。ところが携帯電話の普及によって、固定電話は採算に乗らなくなってしまいました。
1997年に改正NTT法が国会で成立し、NTTが東西分割されたときには、それまではアナログ電話のみしかサービスを行ってはならなかったのですが、この時インターネットにも手を出してよいということになりました。その結果始まったのがBフレッツのサービスです。NTTは光ファイバーサービスを始めました。これはシビル・ミニマムではありませんから、彼らは儲かるところにしか設備投資は行いません。

「最低限の基準」を明確に定めなければ事業が成り立たないそしてさらに、最近のことですが、NTTには固定電話の敷設義務がなくなりました。その結果、屋久島はいまだにADSLすらありません。専用線を引けば大丈夫なのですが、かなりの高コストになります。このような状態で、固定電話の敷設義務がなくなるとすると、屋久島のみなさんは、通信手段も何も持たないということにすらなりかねないのです。
本来であれば電電公社だったNTTの資産は元々は国民のものなのですから、シビル・ミニマムである固定電話の敷設、デジタル交換機の整備などは、NTTが行うのが筋なのではないでしょうか。なぜこうなったのか、それは規制緩和の時に、「シビル・ミニマムとはいったい何なのか」という定義をきちんと行わなかったことに原因があると思えてなりません。

結果として光ファイバーが通らないところが日本の各地に出てきています。そして「そういう地域は公的セクターが光ファイバーの整備を行うべきだ」と民営化論者は主張しているようです。
しかし本来的には、民営化を行い株主に支払う配当削って、光ファイバーをNTTが全国に引くのが筋なのではないでしょうか。それを、NTTが見捨てた地域は税金を払って光ファイバーを整備しなければならず、それを尻目に民間会社となったNTTの役員は内部補助を浮かしたお金でレストランで偉そうに高いワインを社費で飲んでいるというのは、まったくおかしなことだと私は思うのです。
彼らが社用族としてぜいたくをしている原資である会社の金は、本来は離島などの光ファイバー整備に使うべき金なのではないでしょうか。

地方へのサービス提供を放棄して、民業圧迫に狂奔する公益事業

前述しましたが、郵便局は09年の正月三が日を休みました。その結果九州地域の離島では、困った人もたくさんいたのです。その半面東京では24時間営業になった郵便局も少なくなく、都市住民は何の気兼ねもなく利便を享受しているようです。

民営化したJR東日本は、キオスクや駅中のビジネスで大成功し、民業を圧迫しているようですが、その半面日本中のローカル線は叩き切られてしまいました。公共事業も絞られているので新しい道路も作られ地方へのサービス提供を放棄して、民業圧迫に狂奔する公益事業ず、地方ではどんどん過疎化に拍車がかかっています。私などは、「駅中のピジネスに投資する金があるなら、指宿枕崎線を複線化してほしいものだ」と思います。しかしJR九州は鹿児島新幹線開通に合わせて、九州の東部の幹線である日豊本線の宮崎―鹿児島間の複線化をする費用すら出し渋っているようです。それでいて、鹿児島中央駅の駅ビル整備には投資しているのですから、よくわかりません。
鉄道だって郵便だって、通信だってネットワークビジネスなのです。ネットワークを日本中に張り巡らさなければならないから、これらは明治政府以降、バブリックセクターが行ってきた事業なのです。しかも、公的な資金を先行的に投資してです。

定期航空運送事業は民間航空会社が行っていますが、これも羽田枠の割り当てと地方路線整備をセットで行わなければならないはずです。しかし現実的には、地方路線はどんどん切られてしまっています。そして西松社長だけは電車で通勤してるようですが、大赤字で事実上政府管理下に置かれているJALの経営幹部たちがレストランで高級ワインを嗜んでいるというのは、私にはどうしても釈然としないことなのです。航空会社自体は従来から民営ですが、彼らが使用している日本国中の空港のネットワークは公的資金で作られたものです。そして、その要の羽田も国のお金が使われています。

こうしたネットワーク型のバブリックサービスは非常に公共性が高く、民間企業の経営には馴染まないものだと思います。従って私は郵政民営化には反対だったのです。高速道路の民営化や国際競争の要請があったとはいえ電電公社の民営化にも同様の理由で反対です。


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