JAL再建

ページの先頭へ

最大の問題「羽田空港の発着枠」

10年11月に広がる羽田発着枠。この資源こそ、日本の航空ネットワークの要であり、シビルミニマムの達成、地方の格差是正、東京一極集中の排除、日本の航空業界の真の競争力強化のために慎重に配分を考える必要があります。もちろん羽田枠はJAL再建とも密接にかかわってくる問題と言えるのです。

地方路線がなければ羽田は「ハブ空港」たりえない

日本航空再建問題を考えるときに、そして日本の航空ネットワークを考えるときに外して考えることができないのが、羽田空港の発着枠の問題です。安倍政権が打ち出したアジア・ゲートウェイ構想に従って、羽田空港は国際空港化されることになりました。2010年11月に羽田空港に4本目の滑走路が完成し、羽田の発着枠は新たに広がることになります。1日100便の国際線が離発着する予定です。

一方で「日本航空を再建するためには、赤字の地方路線は廃止して当然だ」という雰囲気が形成されています。しかしそれは日本航空が高コスト体質であるから赤字になっているだけであって、赤字を理由にして路線を廃止するというのはおかしな話です。
地方路線がなければ羽田は「ハブ空港」たりえないつまり航空ネットワークが日本の交通インフラであるのならば、地方と羽田空港を結ぶ路線がなければ、それはインフラとしての意味をなさないはずです。「羽田をハブ空港にする」というのであれば、スポークである地方路線が存続していなければ訳がわかりません。羽田から地方空港を結ぶスポークの地方路線がなければハブ空港にはなり得ないので、結局地方から直接飛んでいる仁川空港が、日本の地方都市にとってのハブ空港として機能を維持することとなります。

そもそも羽田のハブ化の話は、東京の官僚と民僚が、あいかわらず自分達が住んでいる東京だけを良くしようという思惑を日本自体の競争力とすり替えて、見た目を国民受けするよう化粧しているだけなのです。専門的にはハブという概念ではありません。本質的にはハブ&スポークで意味あるコンセプトなのですから。スポークがない、もしくは脆弱な空港は絶対にハブになりえないのです。
いくら、アジアからの国際便を羽田に集中しても、法外な国内航空運賃(しかも、往復で10,000円の空港利用税がのっている)で、羽田を利用する外国人や日本人が日本各地に移動することはないのですから。

「ハブ&スポーク」2つの失敗事例

ハブ&スポークについて、2つの失敗事例を御紹介しておきます。この事例をみると、現在一部の利益関係者で喧伝されている「羽田空港ハブ化=国益」論がどれだけインチキなお話かご理解頂けると思います。

1. オーストラリア ケアンズ空港の失敗

オーストラリア クイーンズランド州政府とカンタス航空は、今、日本政府が犯そうとしている過ちを二十数年前に犯しました。
当時のオーストラリアは観光産業の没興期で特に日本からの観光客が急増していました。その中で、両者はクイーンズランド州の北の海洋にあるケアンズをハブと決めて、成田、関空などの日本各地の空港からの航空便をケアンズに集中させました。
しかし、オーストラリアは日本と同様に規制緩和に失敗しており、有力な競争相手のアンセット航空の倒産で、カンタス航空の独占であったため一私企業としての短期的な収益上の効率を重んじるカンタスは、いわゆるシドニー、メルボルン、パース、ブリスベンの大都市間の路線のみに経営資源を投入しました。そのため、ケアンズからオーストラリアのいろいろな観光地への空路は全く整備されませんでした。つまり、ハブはあっても、スポークがない状態です。
結果、日本人はケアンズだけ、シドニーだけ、ゴールドコーストだけに集中し、それらのデスティネーションに飽きた日本人は、オーストラリア自体を訪れる魅力のある国と思わなくなり、訪豪日本人が激減していったのです。皮肉なもので、たいして観光地、リゾート地として魅力のないケアンズだけがいっぱしのリゾート地として、そのベネフィットを現在も享受しているのです。スポークのないハブがいかにインチキな話かよくおわかりになると思います。

2.神戸大震災と神戸港とシンガポール空港

神戸大震災までは、神戸は横浜と並んでアジアのハブ港として、然るべき位置を占めていました。しかし、地震によって、一時的に使用不能となったため、国内の他の港や特に韓国の釜山に一時的にその機能を譲ることとなりました。しかし、結果的には、他の港にいった荷物が、神戸港が改良修復された後も同港に戻ることはなかったのです。

日本港湾の典型である神戸港はその荷揚げ、荷下ろしのオペレーションコストや効率性の悪さから、また日本の国の社会システム自体の競争力の無さから、一旦釜山に譲ったアジアのハブ港の地位を取り戻すことはできなかったのです。
神戸大震災と神戸港とシンガポール空港日本人が一番気付いていない日本のウィークポイントに、日本の国の高コスト体質と非効率性があります。羽田空港は多分同等の世界の空港のどこよりも、建設コストもオペレーションコストも一番高い空港と思われます。この国が戦略的に羽田空港をアジアのハブ空港としたいなら、せめてオペレーション、否空港のマネージメントから見直すことです。そうでないかぎり、国際競争力のあるハブ空港を日本は持てないのです。
馬鹿げた株式公開で、オーストラリアのマッコーリー銀行のファンドに経営権を奪われそうになった程度のお粗末な国土交通省の空港経営能力では羽田の発着枠をやみくもに国際線にまわしても、アジアのハブ空港とならないし、それで得られるはずの国益を獲得するほど、航空産業におけるグローバルコンペティションは甘くないのです。
今や世界一の競争力があるといわれるシンガポール航空に乗ってアジア一、否世界一のトランジット空港と言われるチャンギー空港に行って見ると、前原大臣がいう羽田空港のハブ化の国家戦略の浅薄さを嫌という程感じるはずです。こんな底の浅い羽田のハブ空港戦略のために日本の国内航空ネットワークの維持強化を犠牲にした結果、地方が回復不可能な程疲弊すると予見した場合、皆さんはもろ手を上げて羽田空港ハブ化(=アジア・ゲートウェイ構想)をもろ手を上げて賛成しますか。真の国益の定義なくして真の国家戦略は無いと言えます。

公的資金を投入する理由をよく考えよ

ですから純然たる民間会社であり、すでに民間より有利な条件で政府保証をつけて日本政策投資銀行から多額の融資をしている日本航空再建のために数千億円もの公的資金を投入するのであれば、その理由は、経営上、大問題がある日本航空を存続させるためでもなければ、日本航空の原資不足の労働債務を不公正に補てんするためでもなく、日本のためでない東京のためだけのアジア・ゲートウェイ構想を実現するためでもなく、それは、日本国民が国内で航空運送というユニバーサルサービスとシビルミニマムを享受するためでなければならないはずです。そして、その結果として、地方と中央の格差が是正されるためなのです。

ところがこのままでいくと、公的資金を注入して外国資本にたたき売ったJALを適当なところまでコストダウンして会社としてうまみの出た日本航空に対して、更に羽田の発着枠のおいしいところを与えて、株価が上がったところで投資ファンドが売り抜けて収益を上げることになるでしょう。そして、例によって切り捨てられるのは地方なのです。
そんなバカなことが起きるのを、指をくわえて見ていてよいのでしょうか?

「日本の航空会社の弱体」は競争政策の失敗のせい

そもそも、日本は参入自由の航空規制緩和をしているのですから、前原大臣が国内航空業界は「大手2社体制が望ましい」と発言しているのはまったく人をばかにした話だと思います。航空行政の歴史を勉強して欲しいものです。新米とは言え、国土交通大臣なのですから。

当社のような地方の交通インフラを担っているバス会社や船会社の経営はひどい状況にあります。それは小泉政権のときの規制緩和の結果です。そして運輸業界で一番最初に規制緩和を行ったのは航空機業界なのです。そして、競争原理の導入で日本国の国益のため、国際競争力をあげるべき日本の事業者が日本航空であり、全日空だったのではないでしょうか。自由競争なのに、なぜ国が存続する会社の数について口を差し挟んでいるのでしょうか。それなら地方のバス会社が苦しかった時に、地方で存続するべき会社の数を決めてきちんと公的資金を注入してくれればよかったのにと思わずにはいられません。

「日本の航空会社の弱体」は競争政策の失敗のせい前原大臣はなぜ日本にLCC(ローコストキャリア)が育たなかったかも知らないままで、今後の航空行政を行うつもりなのでしょうか。前原大臣は、JAL実質破たんの原因の一つが、国土交通省がJALに強要した日本エアシステム(JAS)との対等合併であることを御存じなのでしょうか。あの時もJASは、法的整理を行うべきだったはずです。
規制緩和の目的は、自由競争によって各社が切磋琢磨して経営努力を行い、強い競争力を持つ航空会社をつくることにありました。さらに役割分担として日本航空や全日空のようなメガキャリアと、スカイマークやスカイネットアジア航空などのLCC(ローコストキャリア)を分けて育成しようという意図もあったのです。
ところが結果としてどうなったか。日本航空の没落を見れば明らかなように、日本の航空会社は競争力をつけることはできませんでした。前述のごとく、日本航空の経営不振の主因の一つに国土交通省が、無理矢理、JASをJALに合併させたことがあることも、前原大臣だけでなく、日本の政府関係者は学習は勉強は勉強しなくてはなりません。

なぜ日本の航空会社が競争力をつけられなかったのか、その理由は、航空会社は羽田路線でしか儲けることができなかったからです。
5年前に羽田枠の分捕り合戦がありましたが、ほとんど日本航空と全日空に与えられたため、スカイマークなどのLCCは経営体質を強化できませんでした。航空行政がそのようにして日本航空を過保護にしたため、日本航空自体の体質の強化することができなかったのです。航空行政は本当の競争を行わせるどころか、悪い形での日本航空と全日空の独占を助長してしまいました。
羽田枠の問題を検討して、結論として言えることは、国の交通基盤としての交通ネットワークというのは、市場原理を導入すべきインフラではないということです。もちろん、国際線は別です。
大きな間違いは、不当な国内線の利益を国際線の赤字の補てんに使うという乞食根性による航空会社の経営方針にあるのです。
このままでは今回の日本航空再建も、このようなお馴染みの不良債権処理スタイルで、善良な国民の資産を誰かが不当に搾取する形で決着する可能性が高いと思います。許し難いことです。

前の記事次の記事

小泉竹中改革を総括する小泉竹中改革を総括する
ゲストと語るゲストと語る
地方経営者のホンネ地方経営者のホンネ
「憲法改正」で真の地方主権を「憲法改正」で真の地方主権を
JAL再建策にモノ申すJAL再建策にモノ申す
郵政民営化の欺瞞郵政民営化の欺瞞
郵政不動産払い下げ問題郵政不動産払い下げ問題
郵政ファミリー企業見直し疑惑郵政ファミリー企業見直し疑惑
あなたもできる裁判のススメあなたもできる裁判のススメ
あなたもできる告発のススメあなたもできる告発のススメ
インターローカルTVインターローカルTV
岩崎芳太郎著「地方を殺すのは誰か」岩崎芳太郎著「地方を殺すのは誰か」

これでいいのか鹿児島
絆メール

ご意見ご感想/情報をお寄せくださいご意見ご感想/情報をお寄せください

講演依頼・取材依頼はこちらから講演依頼・取材依頼はこちらから