岩崎芳太郎の「反・中央集権」思想

HOME > ゲストと語る > 第2回 「まからずや」代表 中尾 成昭氏

ゲストと語る

「官尊民卑」的意識と、それを超えてゆく個性

岩崎 「点数主義、官尊民卑から脱する勇気、自信を持つべき。」
中尾 「経営の世界は、失敗の中からしか答えが出てこないものがある」

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ラサール・コンプレックスを超えられない、 鹿児島の気風。

ラサール・コンプレックスを超えられない、 鹿児島の気風。──鹿児島の問題点をどうとらえていますか?

中尾 鹿児島では初めて会った人に、よく出身高校を聞きますよね。その序列で、組織や社会までヒエラルキー(ピラミッド型の階級)を作ってしまっているという気がします。

岩崎 僕が鹿児島に帰ってきた30年前、いちばん感じたのは、なんと官尊民卑の土地柄だろうということでした。そして、その官尊民卑は、実は民の方でかってに序列をつけて自分の方が下だと思い込んでいるのだと。

中尾 いつの頃からか、そういう価値観が広まってしまった。それが鹿児島が今ひとつ活性化していけない背景かもしれませんね。

岩崎 人間性や個性ではなくて、ペーパーテストの点数や出身校という、作られた序列にとらわれてしまう。それが、官尊民卑から抜け出せない理由だと思います。ラサール高校を出た人は何でもできる、とみんなが思ってしまうみたいにね。役所でも、企業でも、組織が巨大になると官僚的になり創造性を失ってきます。そのとき、状況をブレイクスルー(突破)できるのは、規格から外れた異端児です。テストで点数の取れる人ではないのです。

「おりこうさんパターン」な人々に任せられない市政のマネジメント。

点数主義の弊害とは?──点数主義の弊害とは?

岩崎 「できる問題だけ解きなさい」と教える、いまの受験テクニックは、生きる上では致命的です。試験では歯が立たない問題は放っておいて、できた問題の確かめをする。こうして試験をくぐってきた点数主義の人たちが、組織でしかるべきポジションについた時、弊害がでてくるのだと思います。

中尾 とくにお役所の官僚制度に見られる、「マネジメント不在」が、その弊害の象徴ですよね。だれが責任者か分からないという。世の中には答えがないような難問がたくさんあって、それを、リーダーはトップマネジメントとして解いていくわけです。マネジメントのマネジとは「いろいろやりくりして、なんとかする」という意味です。難問をほったらかしにすることではありませんよね。

岩崎 知識偏重型のトップの時代は終わったのです。というか、終わらせたところが、地域間競争にも勝つのです。点数をとるのが上手な、おりこうさんパターンの人なら何でも任せられるんだ、という考えが大勢を占める地域は、時代に取り残されていくのでしょう。

パンは与えられるもののみにあらず。これからは自分たちでパンを作っていく。

私たちが今やるべきことは?──私たちが今やるべきことは?

岩崎 戦後、日本の政治は中央集権というシステムで、うまく富を配分し成功してきました。しかし、バブル崩壊以降、国は儲ける力がなくなり、地方に配るものがなくなってきた。地方分権とは、実は「もう配らない、自分たちでなんとかせよ」という国の宣言です。地方は、どうやって自力で食っていくかを真剣に考えないと大変なことになってくる。

中尾 国依存のシステムの中に生かされていることが、これから先どれだけ危険なのか、私たち自身が気づかないといけない。依存状態は、自分たちの未来の選択肢を、狭めることにもつながりますから。それぞれの地域で自助・自立が必要なのですね。

岩崎 人はパンのみに生きるにあらず、という言葉があります。パンがないと生きていけない。けれども、ただパンで生きているのみでは人間とは言えない、という2つの真理です。いつまでも東京からパンは降ってはこない。であれば、パンを自分たちで作ろう。一時的に量が半分に減ったとしても、パンを自分たちで作る勇気が、鹿児島が自尊の地であるためには必要です。

既成の序列や価値観にとらわれない、鹿児島の気風を再構築しよう。

──どんなリーダーが必要でしょうか?

岩崎 黙っていてもパンが降ってくる時代は、無難な調整型でもよかったのですが、これからの自助・自立の時代は、枠にはまらない規格外の、そして高いマネジメント能力のあるリーダーが必要です。そして、もう一つ。哲学、思想のあるリーダーです。その人の思想、哲学が見えれば、未来創りの基となるグランドデザインが自然に見えてきます。残念ながら今の鹿児島の県や市では、どんな思想や哲学で為政しているかは見えてこないのですが。

中尾 僕は、これからのリーダーには、死ぬ気でやる「覚悟」と失敗を恐れない「勇気」を持って欲しい。われわれの経営の世界は、トライ・アンド・エラー、つまり失敗の中からしか答えが出てこないものがあることを知っています。人材を育てる時も同じで、失敗をして学ぶ事の大切さもありますから。

岩崎 どこかで作られた序列や価値観にとらわれずに、ひとり一人の個性、能力を認め、大切にする、そんな鹿児島の気風や風土を再構築したいですね。点数主義、官尊民卑から脱する勇気、自信を持ちましょうよ。



町田 徹(まちだ てつ)氏 http://www.tetsu-machida.com/
経済ジャーナリスト、ノンフィクション作家。 1960年大阪府生まれ。
神戸商科大学(現兵庫県立大学)卒。米ペンシルバニア大学ウォートンスクールに留学。
甲南大学経済学部非常勤講師。
日本経済新聞社における18年間の新聞記者時代に、金融制度改革、郵貯肥大化問題、放送デジタル化、通信回線の接続ルール作り、NTT分離・分割問題、米1996年通信法改正、日米通信摩擦、米金融政策、米インターネット振興策などを取材し、多くのスクープ記事をものにする。  雑誌編集者を経て独立し、雑誌への寄稿や講演活動も手掛けている。




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